第3回 「近世小説の中の忍者」

「近世小説の中の忍者」要旨

吉丸雄哉

忍者は、歴史的な実態のある実像(忍び、忍びの者)と、小説や演劇などに登場する虚像(忍者(にんじゃ))を区別して、考察すべきである。現在の忍者研究は実像の解明を重視しているが、江戸時代人も現代人も虚像にもとづいて忍者を把握していたことを考えれば、虚像の考察も重要である。虚像としての忍者には、超人的な技術である忍術がつきものである。そして虚像としての忍者が登場する忍者説話は一定の型を持つ。その型のひとつが「忍者が忍術を用いてしのびいり、大事なものを盗んで戻ってくる」というものである。

浅井了意『伽婢子』(寛文六年(一六六六)刊)は「飛加藤」と「窃の術」の二つの忍者説話を収める。該話はそれぞれ中国の『五朝小説』「剣侠伝」の「崑崙奴」と「田膨郎」の構成を参考にする。また『甲陽軍鑑末書結要本』から細部のエピソードを得ている。『伽婢子』は翻案小説であり、日本人に馴染みのない原話の剣侠のかわりに、超人的な忍術を使う忍者を登場させた。『伽婢子』の二話は「忍者が忍術を用いてしのびいり、大事なものを盗んで戻ってくる」という構成の話群の嚆矢である。また虚像としての忍者を描いた小説としては、もっとも早いものの一つであろう。

その後、この構成は井原西鶴『新可笑記』巻五の一「鑓を引鼠のゆくゑ」などに継承される。そして、石川五右衛門を主人公とする『賊禁秘誠談』が登場したあとは、「忍者は忍術を用いてしのびいり、大事なものを盗んで戻ってくる」ものという虚像の忍者の姿が世間での一定の共通イメージになっていったと思われる。甲賀古士の記録である「鵜飼勝山実記」などは、島原の役での甲賀古士の活躍を記すが、その活動内容には、すでに流布している虚像の忍者説話からの影響が考えられる。

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