第3回「忍器の使用法」

「忍器の使用法」要旨

 

黒井宏光

 

敵の城や屋敷に、夜の暗闇に紛れて忍び込むときに着た忍び装束は特別な服装ではなく、当時の伊賀、甲賀地方の農民の「クレ染め」と呼ばれる濃紺色の野良着だった。忍者独特なものがあれば正体が発覚してしまう。それは携行する道具にも言える。

忍者が使ったとされる道具の忍器は忍具、または陰(いん)具(ぐ)とも呼ばれた。

農民の野良着で携行していて怪しまれないものといえば農具になる。農具の鎌は、壊して忍び込む「壊器」としても用いられた。敵の侵入を防ぐためにトゲのある木を柵にした逆茂木(さかもぎ)の綱は刀では切りにくいので鎌が要った。男鎌と呼ばれる分厚い両刃の鎌がよく使われた。

鎌を4本束ねると船の錨のようになる。鎌を縄で縛り、長い縄に結び目をつくり、手掛かり足掛かりにすると高い所へ上る「登器」になった。鎌は身を守る「武器」にもなった。

さまざまな職業に変装して敵地に潜入する忍者は、武器を携行できないことが多かった。

忍者といえば手裏剣を連想されるが、ひと目で武器とわかるものは所持できない。

手裏剣としても用いたとされる五寸釘は、「登器」として石垣の隙間に差し込み、今の登山用具のハーケンのように使った。

同じく手裏剣にもなったカスガイは、大工や木を運ぶ人などが使った木と木を組み合わせる両端の曲がった鉄製の大釘。片仮名の「コ」の字型で、用途によっていろんな形状や大きさがある。カスガイは今も使われ、ホームセンターなどで売られている。五寸釘同様に、どこにでもあるものなので怪しまれないのがよかった。

今のバールのように戸をはずして忍び込む「開器」や、敵陣を破壊する「壊器」にも使われた。約30cmの大カスガイなら手の届かない高所に引っ掛けて木に登ったり、石垣の隙間に差し込んで登ったりする「登器」にもなった。

また、木と木を組み、カスガイを打ち付け、紐でくくってイカダをつくり、川を下ったり水掘を渡ったりもしたという。野宿するときは「井」型に組めば鍋やヤカンを載せる五徳がわりにもなった。

忍者は一つで多目的に使えるものを携行したという。

現代はさまざまな便利な道具であふれている。つくられた目的以外の使い方を考えることなどめったにないだろう。ごく普通の道具をいろんな用途に活用した忍者の知恵に学びたいものだ。

 

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