学部便り
オープンキャンパス企画「模擬裁判」について
刑訴ゼミと刑法ゼミでは、ゼミ活動の一環として、オープンキャンパスで高校生向けに模擬裁判を行っています。模擬裁判では、本物の刑事裁判の流れに沿った内容を学生で実演し、参加してくれた方に検察側と弁護側のどちらの主張が優勢か考えてもらいます。
模擬裁判は1年半をかけて準備を行います。具体的には、3年時にベースとなる判例の検討や争点の設定を行い、その後にシナリオ作成に入ります。3年の冬に刑訴ゼミ・刑法ゼミの合同ゼミを開催し、相手方のシナリオ(この時はまだ作成途中)の問題点を指摘してもらうなどの意見交換を行います。その後、シナリオを持ち帰ってお互いのシナリオを完成させたのち、もう一度合同ゼミを行います。それは、3年から4年になる時期、例年は後期の成績配布日である3月下旬に行われ、人文学部で「現代裁判論」を担当していただいている弁護士の先生に、シナリオの問題点を、刑事裁判の実務の視点から厳しく指摘していただきます。その後、就職活動の合間をぬって、8月上旬のオープンキャンパスへ向けて、シナリオの最終修正、証拠などの道具作り、配役決定などを行っていきます。
以下では、私が所属する刑法ゼミが、今回の模擬裁判に向けてどういった点を工夫しようとしたか、模擬裁判を開催してどういったことを感じたのか説明します。
私たちは実際の事件(判例)を参考にしながら、強盗殺人事件のシナリオを制作しました。高校生向けということで、事件の内容を明瞭にし、状況把握がしやすい説明をするよう意識しました。また証拠の写真を印刷して配布したり、裁判の流れや主張の要約をスライドで表示して確認できるようにしたりと、わかりやすい工夫を心がけました。当日は100人以上の高校生の方に見に来ていただき、検察側と弁護側で異なった主張をどう判断するのか熱心に考えていただきました。
準備期間のほとんどをシナリオ作りに費やしたのですが、苦戦したことは、シナリオを作っていく中でどの程度の曖昧さを出すのかということでした。それは、検察官が確信をもって起訴を行う程度に犯罪を行ったことが明らかである必要がある一方で、最初から最後まで被告人が犯罪を行ったことが明らかだと聞き手に有罪か無罪か悩んでもらえないからです。そういう意味で、あまりにも故意(悪意)があってはいけないが(弁護側の説得力)、検察官が起訴をするには確信をもっていなければならない(検察側の説得力)というバランス、あるいは微妙な線引きが非常に難しかったです。シナリオ担当者がひとりで考えていると、偏った意見に寄りがちになるので、ゼミ生同士での話し合いの場を多く設け、調整を図りました。また検察側の目線で考える人と弁護側の目線で考える人に分けて話し合いをすることで、最終的にバランスのとれたシナリオを作ることができたと思っています。
来年度のオープンキャンパスで模擬裁判を行うことを目標に、現在3年生がシナリオ作成を行っています。来年、もしよければ後輩たちの模擬裁判を見てください。
普段の生活の中で裁判に触れる機会はほとんどありませんが、裁判員制度が導入され、市民の皆さんが裁判員として刑事裁判に参加する可能性が生じました。高校生のうちに模擬裁判を見ておくことで、裁判への関心を持ってもらえるのではないかと思います。他にも刑事法などの法律に目を向けることで、考えが広がり、日々のニュースの理解も深まります。ぜひ、自分からきっかけを見つけて裁判や法律に触れてみてください。
2016年10月(2013年度入学 I.Y)