教員紹介 文化学科 日本研究
小澤 毅(おざわ・つよし)日本考古学
飛鳥時代から奈良時代の歴史考古学を中心に研究しています。各地でたえまなくおこなわれている発掘調査では考古学の成果が年々蓄積され、政治の中心であった地域には文献史料も比較的豊富に残されています。これらをつうじて、都の構造の変化とその背後にある政治や社会の状況をさぐりたいと思います。また、造営に用いられた測量技術など、古代の土木技術の具体的復元にも関心があります。このほか、ともすれば史料的価値を低く評価されがちな6世紀以前の記事についても、考古学的成果とあわせて再検討することにより、ヤマト王権の成立と展開の過程をとらえ直したいと考えています。
尾西 康充(おにし・やすみつ)日本文学・日本近代文学
北村透谷を中心とした明治文学が私の研究対象です。透谷が生きていたのは明治20年代、日本が憲法を制定し議会を開設して近代国民国家としてスタートしようとしていた時代です。彼は自由民権運動に参加する同時にキリスト教平和運動にも関与して、それらの影響を受けた文学作品を執筆しました。民権思想もキリスト教も、いずれも当時最新の考え方で、時代の息吹を感じながら透谷は筆をふるっていました。文学のみならず近代の日本文化を考える場合、透谷を避けては通れません。なぜなら彼こそ、近代の入り口に最初にさしかかった作家で、おそらく、そこから広がる光と闇とを敏感に読みとっていた作家であったからです。
川口 敦子(かわぐち・あつこ)日本語学
日本語学(国語学)を担当しています。主にキリシタン資料を題材として、外国人の視点による中世末期~近世初期の日本語の問題を研究しています。この時代は、日本語が古語から現代語に変化したという、日本語史の中でも非常に興味深い時代なのですが、日本人による日本語資料には残りにくいような日本語の様々な問題を、キリシタン資料などの外国人の記述から発見できるのが魅力です。ただし、外国資料が必ずしも正確に日本語について分析・記録しているわけではなく、その資料に関係した外国人の母語や文化的な影響が介在していることも忘れてはなりません。
また、同時代の口語資料である狂言台本にも興味を持っています。
塚本 明(つかもと・あきら)日本史学・近世史学
江戸時代の民衆が、いかに働き、何を考え、どのような生活をしていたのかを、主に三重県下に残された古文書を通して研究しています。三重県には江戸時代の古文書が、全国的に見ても極めて豊富に残されており、調べることが山のようにあります。数百年前の庶民が記した文書から、新たな史実を「発見」するのが、何よりの醍醐味です。ゼミ生や地元市民と一緒に古文書の調査に取り組み、その面白さを地域に向けて発信しています。歴史学とはカビくさい化石のような学問ではありません。学ぶことを通して現在の私たちの生き方を見直していく学問です。地域に埋もれた歴史を発掘し、その活用を図ることも、大事な課題なのです。
遠山 敦(とおやま・あつし)日本倫理学
倫理学・日本倫理思想史を研究しています。今、ここに生きている、この私とは何者なのか。そしてこの私はどのように生き、また生きようとしているのか。問うまでもない「当たり前のこと」のように見えて、しかしその実、答えるのに最も困難なこうした問いを、過去の日本人の様々な精神の営みとの対話を通じて明らかにしようとしています。問題へのアプローチは文献の講読が中心ですが、その対象は仏教、儒教、神道・国学などの思想文献に限らず、神話や物語、説話、歌謡などをも視野に入れ、さまざまな角度から人々の心の襞の奥深くへ分け入って行こうと努めています。
永谷 健(ながたに・けん)社会学
社会学の立場から近現代の日本社会について研究しています。今は若い人たちの自己実現が難しい時代であると言われています。欲しい商品を比較的自由に選べる一方、非典型雇用の拡大という趨勢のなかでは、進路に不安を感じることもあるでしょう。個人を取り巻くこの社会のしくみ、そのなかでの個人の生き方とは、それぞれどのようなものか。そうした根本的な問題を、近代以降のいくつかの時期に注目しながら考察しています。「戦前期の格差状況に固有の社会問題とは何か」「現代において家庭の文化的な環境の相違は職業意欲と関連を持つものか」など、いくつかのテーマを定めて、先行研究の考察を中心に雑誌記事の分析や実態調査の企画・実施もまじえながら、研究を深めていこうと考えています。
開 信介(ひらき・しんすけ)日本近代文学(特任教員)
わたしの専門は日本近代文学です。博士論文では久生十蘭という作家を扱いました。昭和10年代に雑誌『新青年』によって作家として登場し、アジア・太平洋戦争を経た昭和30年代まで活躍した探偵小説出身の作家です。十蘭が登場した昭和10年代は『新青年』に代表されるようなモダニズム文化華やかなりし時代である一方、政情不安の中、日本が軍国化していく暗い時代でもありました。戦前の探偵小説は、現代のジャンル意識から見ると、幻想小説やSFに相当するようなジャンルを含みこむ雑多かつ豊饒な領域でした。十蘭をはじめ、小栗虫太郎や夢野久作といった作家はそのような「変格探偵小説」を代表する作家でしたが、日本近代の光と影が明瞭にコントラストをなした昭和10年代に発する想像力が戦争を経て、現代に到るまでどのような影響を及ぼしているのかを視野に入れ、研究を進めています。
村口 進介(むらぐち・しんすけ)日本中古文学(特任教員)
平安時代のみならず日本を代表する物語文学の最高峰に挙げられる『源氏物語』を中心に研究しています。『源氏物語』といえば、プレイボーイな光源氏がさまざまな女性たちと恋愛を繰り広げる物語、というイメージを持つ人が多いかもしれませんが、それは物語の一つの側面でしかありません。『源氏物語』において恋愛と政治は切っても切れない関係にあり、光源氏の場合も、藤壺との間生まれた冷泉帝がまさに天皇として即位する点に、そのことがはっきりと認められます。政治的な側面は平安時代の社会制度への理解が不可欠であったり、なかなか説明が難しいため、現代では省略されがちですが、逆にそういった面があるからこそ1000年以上もの間、『源氏物語』は読み継がれてきたとも言えます。『源氏物語』の魅力を味わい尽くすには、まだまだ時間がかかりそうです。
森 正人(もり・まさと)日本地理学
わたしは文化地理学・民俗学を専攻しています。地理学という言葉を聴くと高校や中学の地理の授業を思い出されるかもしれませんが、わたしはとくに近代から現代にかけての日本で生じたさまざまな文化現象に関心があります。「文化」とは昔から変わらずに受け継がれてきたものではなく、様々な人々が現在もなお作り上げ続けているものです。また文化は、経済や政治と無関係では決してありません。わたしの場合、四国遍路や民間信仰、弘法大師に関する考えや現代の都市文化などが、どのように国家政策、ナショナリズム、観光、学問体系、資本主義と関わりながら今のわたしたちの手元に届けられているのかということを研究しています。
山田 雄司(やまだ・ゆうじ)日本史学・中世史学
日本中世の信仰について研究しています。中世日本に生きた人々は、自然現象に敏感で、神仏に畏敬の念をもって接していました。そして神仏に対する配慮に欠けると、神仏は祟りとなって現れ、社会を「あるべき姿」に引き戻すという役割を果たしていました。歴史が叙述される場合にはしばしば政治史・経済史の視点から語られることが多いですが、私は日本に生きた人がどのような考えを持っていたのかという思考のあり方に興味を持っています。神仏の世界を基点として日本人とは何かという問題に迫っていきたいと思っています。また、近年は忍者研究について取り組んでいます。
吉丸 雄哉(よしまる・かつや)日本近世文学
江戸時代の文芸を研究しています。特に戯作と呼ばれるジャンルに関心があり、とりわけ式亭三馬を研究対象としてきました。式亭三馬は狂歌・狂文・草双紙・洒落本・滑稽本・読本など多種多様の文事に携わりました。中でも『浮世風呂』『浮世床』といった滑稽本の著述でその名を残しています。滑稽本は会話文で主に構成されています。登場人物の姿に絶妙な「あるある感」があって、現代人にも笑いと共感を呼びます。三馬作品の精緻な会話文が明治の言文一致体に影響を与えたことも注目されます。戯作作品の個々の解明のほか、現代にいたるまでの継承を考えつつ、研究に取り組んでいます。