研究
第5回「伊賀上野の武家屋敷」(前期)
「伊賀上野の武家屋敷」要旨
菅原洋一
上野には入交家、赤井家、成瀬家と三つの文化財の武家屋敷がある。入交家は中でも主屋、長屋門、表屋があって全体的な構成が整っている。入交家の主屋は茅葺で、外観は農家と変わりがない。武士のルーツは兵農分離以前の土豪層であり、農家と武家屋敷は近い存在なのである。屋敷の中に畑があるのも農家と近い点で、自家用の蔬菜類を栽培するのが武士の嗜みだった。しかし、入交家では、ここは桜草、花菖蒲、牡丹などの園芸用地になっている。当主は江戸などから花苗を取り寄せ、ここで育てていた。武家屋敷は格式張った面に目が行きがちだが、花を楽しみ、武士町人を問わず、気の合う人との交遊を楽しむ生活の場でもあった。長屋門と並ぶ町家風の表屋も面白い。これは町人を置く借家と推測される。入交家がある相生町は武家屋敷と町家が混在する町だった。この点は中之立町通りに面し、町家と隣り合う赤井家も同様で、城内に立地した成瀬家は別格だった。中堅の武士と町人は意外に近い存在だったのである。
武家屋敷は、町家とともに上野の魅力をつくっている。長屋門の表構えの品格、塀越しの庭木の潤い、武士の生活文化など、武家屋敷ならではの特色を、上野の町づくりにも生かしていきたいものである。