研究
第6回「戦後忍者小説概説」(後期)
「戦後忍者小説概説」要旨
吉丸雄哉
講演では、江戸時代以来の忍者の出てくる作品の解説をし、特に戦後から現在に至るまでの忍者の出てくる小説の考察を行った。戦後忍者小説史は時代小説を中心に語ることが多いが、時代小説以外の作品を視野に入れて、忍者を小説にすることの意義を考えた。
忍者作品史を考えるさいに、尾崎秀樹が昭和30年代の第三次忍法ブームに対して、マスメディアの更新が忍者ブームを起こすと見たのは示唆に富む。メディアの更新に即して忍者作品史を区分すると、「江戸期」「大正・昭和戦前期」「昭和戦後から昭和末期」「平成から現代」に分けられる。
そもそも江戸期に登場した忍者小説が怪談・奇談であったように、忍者作品の本質は、超人的な忍者が超現実的な忍術をつかって活躍するところにある。史実の忍びに即してフィクションの忍者は描かれるものの、超現実的な忍者の存在は話の事実性を弱める働きがあり、歴史的な要素も重視する読者を対象とした時代小説とは実は相性が悪い。
現代の忍者小説は、児童文学のほか、日本史によらない自由な和風ファンタジーであったり、異世界や現代社会に忍者が登場するものも増えて、西尾維新『刀語』(2010)、仁木英之『立川忍びより』(2017)のような良作がある。
ここ十年ほどの時代小説では和田竜『忍びの国』(2008)や万城目学『とっぴんぱらりの風太郎』(2013)などが人気を博したが、単に過去の時代小説の形式を真似するのではなく、作品の本質が現代が潜在的に抱えている問題に関わっているからこそ、読者に受け入れられたといえる。