人文学部
人文社会科学研究科

研究

第4回「昭和30年代の忍法小説-柴田錬三郎と山田風太郎-」(後期)

昭和30年代の忍法小説-柴田錬三郎と山田風太郎-」要旨

牧野 悠

 柴田錬三郎と山田風太郎によって開拓された〈忍法小説〉ジャンルの源流には、流行作家となる以前に両作家が参加した『面白倶楽部』の連続企画「新編立川文庫」が存在する。また、風太郎作品と同月号に掲載された黒部渓三「忍者車田新八」では、当時は普及していない語である「忍法」が用いられていた。したがって、雑誌および編集者が回路となり、柴錬・風太郎と「忍法」が結び付いたと推測できる。
 同時期には、〈剣豪ブーム〉の余波で剣客や武術に関する書籍が盛んに出版されたが、それらの多くは、講談や大衆小説で流通した通俗的な過去像の否定を伴うものだった
 しかし、〈忍法小説〉の代表作、柴錬の「赤い影法師」「柴錬立川文庫」、風太郎の「くノ一忍法帖」「魔界転生」等で描かれた忍法や忍者は、時空間におけるメディア的存在であり、『立川文庫』的世界を再構成しつつ発展させるために機能していた。両作家に共通するエロティックな忍法表現にも、虚妄と断定された史的物語の再現、あるいは史実の相対化を目的とする合理性が認められる。
 真正なる過去として認識の画一化を迫る規範に、記録の間隙へ忍者を挿入する発想と、奔放な想像力に基づく娯楽性を武器に、不埒な虚像として対峙する志向を、柴錬と風太郎の〈忍法小説〉は共有していたのである。
2019年度後期第4回忍者・忍術学講座 (2).jpg
動画(部分)
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