人文学部
人文社会科学研究科

研究

第5回「石川五右衛門について知っておくべきいくつかのこと」(前期)

石川五右衛門について知っておくべきいくつかのこと」要旨

 吉丸雄哉

石川五右衛門は『言経卿記』や『日本王国記』の記録から実在の盗賊だったとわかるが、これらに『慶長見聞集』『豊臣秀吉譜』を加えた以外の記録は基本的に伝説とみたほうがよい。18世紀前半までの石川五右衛門は小説では残忍な盗賊であり、演劇では釜煎りをクライマックスとする親子の恩愛を描いた作品に登場する盗賊である。忍術をつかう設定はなかった。石川五右衛門が忍者として描かれるようになったのは18世紀中頃以降に成立した実録体小説『賊禁秘誠談 』からだろう。18世紀中頃以降、演劇で魔法的な忍術をつかい天下国家の転覆をはかる大悪人として石川五右衛門は描かれるようになる。『金門五山桐』(1778のちに『楼門五三桐』)『木下蔭狭間合戦』(1794)『艶競石川染』(1796)を経て演劇における石川五右衛門の外見および性格が確立した。現在ではそれらの作品をとりあわせた『増補双級巴』(1861初演)が上演されている。小説では『賊禁秘誠談』とならんで『絵本太閤記』(1797-1802)が石川五右衛門像の確立に果たした役割が大きい。石川五右衛門が文芸や演劇のなかで、悪人ながらもスケールが大きく、悪の華とでもいうべき魅力の持ち主として描かれるようになった。近代に入ってからも盗賊あるいは悪の忍者として文芸や演劇・映画に登場するが、檀一雄『石川五右衛門』や村山知義『忍びの者』のように江戸時代よりも等身大の人間として五右衛門を描いた作品が多くなった。近年でも和田竜『忍びの国』(2008)や映画『GOEMON』(2009)、テレビ時代劇『石川五右衛門』(2016)といった五右衛門の活躍するさまざまな作品が作られており、五右衛門像はこれからも更新され成長していくと思われる。

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