研究
第2回「古文書の折り目が語る朝倉義景の外交知略」(後期)
「古文書の折り目が語る朝倉義景の外交知略」要旨
石川美咲
誰かから誰かへ意図をもって伝達された江戸時代以前の文書を「古文書」といいます。古文書は「くずし字」で書かれており、難読ですが、紙の材質や形の違いに注目すると、朝倉氏の戦略的な一面がみえてきます。
本講座では、主として朝倉義景の対越後上杉謙信の外交政策を題材として取り上げます。注目すべきは、朝倉氏が上杉氏に対して出した書状が特殊な紙の使い方をしているところです。まず本紙は①竪紙(料紙を横長に用いたもの)です。さらに、本紙の中央に横一線に付いた折り目から、②横内折と呼ばれる折り方をしていたことがわかります。①・②の特徴を持つ文書は、戦国時代の東国で流行した文書の形態でした。いわば「東国限定ローカルルール」です。
一方で、通常、朝倉氏が越前周辺および畿内の人物に宛てた文書では、この様式は用いません。朝倉氏はひと手間かけてでもこのやり方を採用したのだとわかります。朝倉氏は文書を出す際、宛先の人物との関係性や、発給の目的の違いによって、紙の種類を使い分けていたのです。その方が外交戦略上都合がよいことを、義景は理解していたのでしょう。