研究
第1回「江戸町奉行所同心の犯人探索の旅-江戸の逃亡犯をいかに捕まえたか-」(前期)
「江戸町奉行所同心の犯人探索の旅-江戸の逃亡犯をいかに捕まえたか-」要旨
滝口正哉
江戸の市政を管轄する町奉行所はさまざまな部署に分かれており、それぞれ与力・同心が配属されていました。なかでも「三廻り」(定廻り・臨時廻り・隠密廻り)は同心たちだけで組織され、彼らは江戸市中の取り締まりや犯人探索にあたるものとして、これまで時代劇や歴史小説などで盛んに紹介されてきました。彼らの臨時任務には、密偵活動の他にも、江戸から地方へ逃亡した犯人を捕縛するため、しばしば地方に出張する在方出役がありました。今回は幕末に町奉行所の臨時廻り同心を務めた山本啓助の「廻り方手控」を題材とし、町奉行所同心の在方出役の実態を取り上げました。在方出役は定廻り・臨時廻り各1名の2名体制を基本とし、まず犯人の逃亡先の情報を収集し、潜伏先の目星がつくと、正式に出役する前に犯人の逃亡先と思われる土地へ「飛脚」と呼ばれる手先(岡っ引き)と「差加人」と呼ばれる見知人(犯人を知る者)を派遣して潜伏先を探索し、潜伏先が確認されると現地に出張するのでした。今回は出張中の彼らの対応と、特に臨時廻り同心のスパイ活動の末に見つけ出された尊攘派志士の清河八郎が再び逃亡した際、山本らが在方出役に赴いた緊迫した探索の様子について解説しました。